2018年、4月24日。
初めてアイソトープラウンジに行って、ライブを見た日。
愛に溢れた漫画を読んで、なぜか行かなきゃと思って、DMを送って、アイソトープラウンジでライブがあると知って、大学帰りに新宿二丁目に走った。
こんな、こんな、私の心に入り込んでくるアイドルがいるなんて、と思いながら、一番後ろに突っ立って泣いてたあの日。
MCのしらとりさん。
「初めて来てくれた方、一人で来てくれた方、二丁目に来ることって、勇気がいることだと思うんです。来てくれて、ありがとうございます」
勇気を出してよかった、なんて言葉じゃ足りないくらい、その日の私が救われてしまって、涙が出た。
初めての特典会、あのときは目も合わせられなかった。
私が言った「初めまして」の一言に10倍の言葉が返ってきて、びっくりしたっけ。
「うそ、あなた1人できたの?」
18歳の私、夜の新宿も二丁目も初めての、黒髪ロングだったころ。高校を卒業したばかり。上京したばかり。一人暮らしを初めて24日目。ミキちゃんは信じられない、とでも言いたげな目で驚いていた。
「ここ座って!」「なまえは?」「あ!カバン重いよね?置こうね、ここ、かして」「初めて来てくれたの嬉しい〜」「ライブどうだったよかったでしょ?」「何で知ったの?」
アワアワ質問に必死に答えていたら4人がうんうんうんうん、と頷いてくれて、こういうアイドルとの特典会というのが初めてで、取って食われると潜在的に思っていたらしい私は、あっ、怖くない!と思ったんだった。
「こんなに話していいんですか?」
「大丈夫、話せるの。また来てよ、また話せるから」
「5/1、来て欲しいの」
「あの、大学休んで、行きます、ぜったい」
「ほんとに?」「来てくれる?」「行きます」「嬉しい」「ぜったい行きます」
「気をつけて帰ってね、気をつけてね、もう遅いから」 手を振りながら心配そうな顔。
「また来てね」「はい」「待ってるから、また来て」「はい」「ありがとう!またね!気をつけてね!」
あの日は手を握られただけで動揺して、目も見れなくて、笑われていたのに、きのうは、2019年4月23日は、目を合わせて2人でニコニコしてしまった。
何も言わずに目を合わせて、2人でつないだ手を手をぶんぶん振ったり、ただ笑ったり、そういう時間が私としらとりさんとの間にはけっこうあるのだけど、何も伝えられていないのに、ちゃんと伝わってる気がしてしまって、これがなかなか好きなんだなあ。
もちろん言葉を伝えられるにこしたことはないのだけど、テレパシーなんて実在しないのだけど、愛しさの込み上げる瞬間に目が合っているというのは幸せなことだと思う。
その日も目を見ていたら愛しさが込み上げてきて、しらとりさんのほっぺに手を伸ばしたら、目を細めながら返してきた。
「愛してる」 「私も」
目を合わせて告白できる日が来るなんて、思わなかったよ。
夏頃、ふと思い出して、ああ私はこんなふうにDMを送って、漫画を読んで、あなた達に会いに行ったんだった、と思ってその事を書いたリプライを飛ばしたら、ハートが飛んできたことがあった。ミキちゃんからのいいね。
届いてる、と思って手が震えたんだった。
4人それぞれ、私の文を読んでる証拠を突き出してきたときのこと、私を見透かしてくれていた時のこと、ちゃんと覚えてる。
4人に、私の気持ちが、確かにしっかり届いてた日々がちゃんとあって、今もきっと、対面のあの場とライブで伝わってる。文を読んでいなくたって、Twitterを見ていなくたって、超越した何かがほんの少しだけあるって、そうだって信じてる。
2018年4月24日から、1年経った。
人の頭が8割の視界で、白鳥白鳥というアイドルを見つけた時のこと。
一曲目のそっ閉じ青春で羽ばたいたその人が、信じられないくらい美しかったこと。
この人だ、と言う言葉が頭に浮かんだ瞬間。
ライブが始まって1分も経たないうちに、推しを決めたあの日のこと。
君に出会えたあの日のこと。
この人が、私の、推しだ、と思った。
一番後ろで背伸びをして追い続けた。指先、まっすぐな目、
君が私のアイドルだ。
もう一度、君に会いたい。
もう一度だけ君に会いたい。
もう一度、もう一度、もう一度、君に会いたい、そう思いながら、大学を出て足早に歩いていた。毎回、もう一度だけ、と思いながら地下鉄に乗って、あと1回だけでも、と思いながら列に並んで、ライブを観た。
もう一度、あの人に会いたい。
私を突き動かしていたのはこの気持ちだけ。会えるなら、夜の新宿なんて、二丁目なんて怖くない。渋谷だって怖くない。野外だって怖くない。1人だって怖くない。1人で並んでいる時間は途方もなく長くて、ライブは一瞬で、疎外感に殺されそうな日もあって、突っ立ってみているだけの自分に首を絞められる日もあって、ライブが始まる前に帰りたいと思いながら泣く日もあって、特典会の前は手が震えて、スマホの充電が切れたらすることもなくて、でも、でも、そんなの、会えないより、ずっといい。
家族とも離れて暮らして、大学は上手くいかなくて、18歳の私を、誰も私を、見透かさなかった。家族が見透かしていたのかと聞かれたらそうではないけど、あの呪われた町を飛び出して物理的にも1人になってしまった私が求めていたものはやっぱり人の温もりで、
ダメダメな日、アイソトープラウンジに着いた途端、大きなため息がでた。そのまま深呼吸。夜の新宿の匂いがした。鼻の奥がつんとした。いつからここはこんなに呼吸がしやすい場所になったのかな。初めて来た日は一人で泣いてたくせに。私の手のひらを握りながら笑う人と、私を抱きしめる人が、東京に、新宿に、こんなにいてくれるなんて。
「あのね、今日のライブを見て、4人のこと、愛してるって思ったの」
「、、、、いま気づいちゃった?」
知ってたよ、みたいな顔するから適わなかった。
私はいつも、他人に何も残せなかった。
自分の中にも、他人と何も残せなかった。
学校では言わずもがな、それ以外の場所でもたいていそうだった。
人と仲良くなるということが、よく分からなかったし、いつもなんとなく煙たがられてしまって、自分でその理由がわからない自分のことを、愚かだと思っていた。実際きっとそうだった。
でもそんな僕も好きだよと言ってくれたから
そんな人たちがいるだなんて思わなかったの
過去はやり直すことはできないけど輝かせることは出来るかなあ
下手くそなケチャをしながら、アイソトープラウンジの一番後ろに突っ立って泣いていた時のことを思い出した。
あの日君に出会い生まれた意味をやっとほんの少しだけ感じたときのように
会えた途端、ピンクのワンピース、かわいいって褒めてくれる人が、ちゃんといたから。
最高のライブと、最強のアイドルは、それに関係するおおきなものをたくさんくれた。
23日、またね、と言った後、手を離してくれなくてびっくりした。
少しずつ離れていく手、1本ずつ解けていく指、最後の1本、あ、ばいばいだぁ、と思ったのに、私の親指をぎゅっと握って離さなかった。名残惜しそうな顔をして私の目を見ていた。こんなことは初めてで、えええ、とびっくりした。
「またね」「ありがとう」「うん」「ねえ〜〜〜〜〜、○○〜〜〜」「あはは、ありがとう、またね」「ありがとう」「うん」「ありがとう」「うん」「○○、○○、ねえ〜〜、、、、」「あはは、しらとりさん」「またね」「またね」
アイドルに救われたいって私の夢、叶っちゃったみたい。出会えたからもう安泰じゃない?
「もう一度、君に会いたい」
2年目もきっと、この気持ちが私を動かすよ。
おわり