" 超愛せる人♡ "

 

私が初めてブログのようなものを書いたのはこうこういちねんせいのとき、16歳だった。

 

ちなみにブログはまだ1年?2年?くらい。

 

はてな匿名ダイアリーという名前の匿名掲示板みたいなところで、私は書きまくった。

 

その時は自分がこの気持ち悪い文を書きましたーーーー!って事実がどうしても残せなくて、匿名に書きなぐっていた。

 

死にたくなかった。死んでほしくなかった。私の中で今こうやってぐつぐつしている、蠢いている感情は、16歳の今しかないんじゃないかと思った。明日にはもうないんじゃないかと思った。悔しい思いも悲しい思いも嫉妬も怒りもざわめいて止まらない心臓の音も。16歳の女子高生だからって舐められたくなかった。身長151センチの私がこうやってなんとか立って過ごしているのに、誰も立ち止まってくれないなんて、こんなに毎日考えているのに、ふざけんな!こっち見ろよ!無視してんじゃねえよ!私はここに居るのに、私はここに居るのに!こういう若いころの儚い痛々しく青い感情は、ガラスだと表現されることもあるけど、私からしたらシャボン玉のようなものだ。明日には、下手したら数秒後には割れて、ほんのり洗剤の匂いがする地面だけが残る。そんなの死んでもゴメンだと思った。地面なんて踏みつけて必死に歩くためのものじゃないか。そんな所に捨てたくない。私は私のことが大嫌いだ。顔も考えも性格も気持ち悪い。でも私が持つ感情くらい、でも私が考えた意見くらい、誰かに見せたっていいんじゃないのかなと思った。ふわふわと浮き続けるネットの海、この大海原、これが私の感情の墓場にぴったりだと思った。頭がおかしくなりそうな毎日だ。ちいさな町の中で、殺した自分はどこに行くのだろうとずっと考えていた。ピンクが着たかった自分、ハブられた自分、上手く出来ない自分、馬鹿にされた自分、親に殴られた頭まで、脳が揺れて頭がおかしくなりそうだ。毎日、毎日、毎日、毎日毎日毎日、私が死ぬ。死んでいく。私が。少しずつ死んでいく。

 

このまま死んじゃうのは嫌!

似合わない街に行きたい、睨まれて帰りたい。私の世界を作りたい、私だけの私の部屋。

 

物理的な部屋も似合わない街もなかった。家はいつも汚くてものが溢れていて私だけの部屋なんてものはなく、この田舎には似合わない街なんてものはなくあっても車がなかったら無理で自分では行けもしない。私だけの部屋ははてな匿名ダイアリーだった、ログインしたあとの画面に並ぶ何個もズラっと並ぶ私の感情たちだった。はてな匿名ダイアリーでぶっ叩かれることもあった、でもそれが嬉しかったそこが私の似合わない街だった。私と目を合わせてぶっ叩いてくる増田おじさんは、妙にプライドが高く生徒の心を殺す担任の男より何億倍もマシで、マシどころか愛おしいもののように思える日もあった。

 

私は自分が地球上にいる人間のなかでは、青くて若いという、どちらかと言われれば青くて若い方に入るという自信があった。そう思ったら書かずにいられなかった。匿名ダイアリーにアクセスする、ログインする、1文字目をフリック入力したらもうそこからは簡単、アホみたいに頭の中から文章が溢れてくる。それを追いつかれないように手早く指を動かして、iPhoneにかじりついて、フリック、フリック、タップ、フリック。毎日のように泣きながらフリックした。iPhoneのあかりしかない暗い部屋で、死にたくないから必死に指を動かした。

 

何個も書いた、何個も書くものだから匿名なのにたまに張り付いてる人達にバレた。「この文体はいつかの君か?」から始まる説教おじさんのコメントから、「気持ち悪いけど俺は好きだよ。その若い感情を殺さないでくれ」というサラリーマンの懇願まで届いた。「沢山書いて残して置いてくれ、もったいないよ」と泣くアラサーのOLまで。なんの返事もない記事も、アンチコメントで埋まる記事ももちろんあった。けど、指先ひとつで全世界に自分の感情を発信した瞬間、公開するボタンをタップした瞬間、私の全てが報われるような気がした。黙らないで済んだ、と思うと心がすっとした。

 

黙りたくない。馬鹿にされても痛々しくても、黙りたくない。負けたくない。何かに。なんだろう?世間かな?周りの女かな?いなかの男尊女卑かな?わからないけどとにかく負けたくなかった。わからないけど、とにかく、殺されるくらいなら殺してやりたかった。

 

書いているうちに、自分が書いたということを残したい気持ちが産まれてブログを作った。そして今に至る、

 

16の時からずっと変わらず同じベクトルで好きなのは大森靖子、せいこちゃんの言葉は意味がわからないときもあったけど、たしかに脳味噌の揺れ方が私に似ていた。毎日聴いた。

大学に合格して、東京への切符を手にした日、せいこちゃんから「おめでとう」とDMが届いた。

 

東京には髪がピンクの人もいて、きっとここより息がしやすいんじゃないかなと思いながらスーツケースにつまらない服を詰めた。せいこちゃんを聴きながら。

 

捨てられてしまった名刺。せいこちゃんが超歌手のように、あなたが超○○だという名刺を作りましょう、せいこちゃんが全部手書きします、という企画があって、返信用封筒を入れて送ったのだけど、送ってから気づいたけど1日締め切りに間に合わなかった。あ、と思って、まあいっか、と日々を過ごした。

 

でもある日、ポストに入ってた。名刺が。

 

名前にハートマーク。私が選んだ、超○○にもハートマーク。それから、宛名にも。

 

「○○ちゃん♡ 超愛せる人♡」

 

桜の花びらみたいな靖子ちゃんのハート。

 

好きな人の文字で書かれた自分がなりたいものの破壊力って、けっこうすごい。

超愛せる人、考えたのは私、でもせいこちゃんが書いてハートマークを付けてくれただけで、特別なもののように思えた。  

 

このブログは他人から噛み付いてると言われたり吠えてると言われたり愛があると言われたりダサいと言われたりとても良いと言われたりするけど、過激で噛み付くような文だって人を愛するために書いているので許して欲しい。あなたを愛するために今日も文を書きました。

 

おわり